前章では、ダウ理論の6つの基本原則と初心者が抑えておくべきポイントをお届けしました。
今回はその中でも最も重要かつ、いわゆるダウ理論の要といえる、「トレンドは明確な転換シグナルが発生するまでは継続する」について詳しく見ていきたいと思います。
前回記事:ダウ理論の6つの基本原則と初心者が抑えておくべきポイント
ダウ理論のミソ:明確な転換シグナル
トレンド転換のイメージ
それでは、ピーク・アンド・トラフ分析に基づく「トレンドの明確な転換シグナル」について確認してみましょう。
トレンドの定義は
「高値が切り上げて安値も切り上げる時は上昇トレンド。高値が切り下げて安値も切り下げる時は下降トレンド」
となります。
トレンドを判断するには2点の高値(ピーク=山)と、2点の安値(トラフ=谷)が必要になります。
この図で示す通り、Aの高値のラインを上抜いた時点で、次の高値はそれより上に発生することは確定しましたね。安値も切り上げているので、上昇トレンドが確定します。
もちろん、ここからまた下降トレンドに向かっていくことは可能性として十分にあります。ただ、ダウ理論を無意識に認識している大多数の投資家たちにとっては、この時点で上昇トレンドであるという認識が発生しましたので、そうゆう意味で上昇への優位性が追加されました。
では次に、この画像でのトレンドはどうでしょうか。
上昇トレンドの高値安値切り上げが続いてきた後に、水平線Bを割り込んで安値が切り下がる現象が起きてしまいました。
これでは、上昇トレンドの定義も下降トレンドの定義も満たしていませんね。
つまり、トレンドが一時的に止まっている状態。トレンドレスとも呼ばれます。投資家たちの意見が分かれ出します。
上昇トレンドがまだ続くと考える投資家と、下降トレンドに転換するかもしれないと考える投資家のせめぎ合い、綱引きが続けばレンジ状態に突入することに。
では問題です。トレンドが中途半端に滞ってしまったこの状態、ダウ理論だけで見れば投資家の目線は上昇トレンドが継続していると見るべきでしょうか。それとも、ここから下降すると見ているでしょうか。
ヒントは6つの基本原則のひとつ、「トレンドは明確な転換シグナルが発生するまでは継続する」です。
そうですね、これだけでは下降トレンドに転じたというシグナルは発生していないので、どちらのトレンドにあるかということであれば、まだ上昇トレンドが継続しているということになります。
では、次の図。
時間が経過して、さらに上の方向へと伸びていきました。これで、高値と安値はこのように更新されたことになります。上の図と比べて『安値2』の認識が変わったことが、ポイントです。
では逆に、下降していった場合はどうでしょう。
こうなりますね。水平線D を突破して下へ進んだ時点で、次の安値も切り下がっていくことが確定しました。下降トレンドが発生=つまり上昇トレンドが終了したことを示唆していることになります。
ここまでは、ご理解いただけましたでしょうか。
小さな波で見るトレンド VS 大きな波で見るトレンド
では、実際のチャートを見てみましょう。
こちらの画像をご覧下さい。
どのように高値と安値が更新されているでしょうか。
繊細な方であれば、こんな感じで細かく高値と安値を見ているかもしれませんね。
ということは、このチャートの中では白線の箇所で上昇から下降へのトレンド転換、赤線の箇所で下降から上昇へのトレンド転換が起こっていることになりますね。
それでは、次のように大きな波を見つけることもできませんか。
これも当然、正解です。要は、大きなトレンドで勝負するか、あるいは小さなトレンドの中でチャンスを探すかという違いになります。
もうひとつ、見てみましょう。
ダウ理論としては、このトレンドは?
まず、小さな波で見るトレンドから見てみましょう。もちろん、これは波の数え方の一例ですので、私とは異なる数え方をしてもOKです。
この黄色の波では上昇と下降のトレンドを繰り返し、今は下降トレンドの真っ最中となります。いくらか下降の勢いは落ちていますが、明確なトレンド転換のシグナルが出ていないので、目線としてはまだ下降ですね。
では、大きな波で捉えてみるとどうでしょうか。
一時的に値は下がっているものの、安値を切り下げるほど下げているわけでもないので、トレンド転換のシグナルは出ていません。
よって、このサイズの波でトレードをしている投資家にとっては、上昇トレンドが継続中ということになります。
小さな波の下降トレンドが勝つか、大きな波の上昇トレンドが勝つか、果たしてどちらのトレンドが強いのでしょうか。
分かりやすい波で勝負する
さて、ここまでの説明で、もしかしてあなたは矛盾を感じていませんか?
「ダウ理論でトレンドを判断すれば、世界中のトレーダーと同じトレンドを認識することができるんじゃなかったの?高値安値の数え方が人によって違うって矛盾じゃね?」
・・・と。
この不思議が、もうひとつのキーポイントになります。
一言で言えば、「より見やすい波を基準にすれば、より多くの投資家と同じ目線を保てる」ということになります。
説明しますね。
上で見ていただいた画像の中だけでも、波の大きさは見る人によって変わります。私が描いた二通りだけとは限りません。
ちょっと目を凝らしてみると、「こんな波もある。こんな波でもいい」と、いくつもの候補が目に浮かんできませんか。
次に大きな波の方はどうですか。候補の高値安値はいくつか挙がるかもしれませんが、一番大きな波、といえばひとつだけ、もしくはかなり限定されるのではないでしょうか。
ここで仮定ですが、他の投資家も、顕著な高値安値でトレンドを判断した方が、相場の総意に近づけると考えるのではないかと、思いませんか。
ですので、オススメは
大きく顕著で見やすい高値安値を刻んで動いている、分かりやすい波を見つけてトレードすること
です。
例えばこんなの。
一目見て、波の高値安値がイメージできます、、よね?
この波の顕著な高値安値を追っていけば、他の投資家と同じ目線でトレンドを判断することができそうです。
このように、分かりやすい波だけを狙ってトレードをするというのも、立派な戦略のひとつです。
ダウ理論だけでトレードする例
ここで、残念なお知らせがあります。
ここまで何度も、世界中の投資家が云々と書いてきましたが、実はその中にあなたや私は含まれていません。
私たちのような素人レベルの個人投資家が1ロットとか10ロットとかトレードしたところで、それはチャートに何の影響も及ぼしません。
ここであなたが意識すべき世界の投資家とはずばり、投資ファンドや投資機関のような、大きな資金力を持った人たちです。
逆にいうと、大きなロットで勝負をする人たちが、どんな考えで相場に臨んでいるかを想像することが大切です。
分かりやすいところで、いくつかの例を出してご参考にしていただこうと思います。
例1:トレンド転換
高値と安値を切り上げながら、調子良くトレンドを伸ばしています。
トレンドには3段階のフェーズがありましたね。
第1段階=トレンドがゆっくり転換してくる先行期。
第2段階=多くの投資家がトレンドを認識して参戦してくる追随期。
第3段階=トレンドの終わりを予感して離脱していく、利食い期。
上の画像を見る限り、第2段階の追随期に見えます。理由は、利食いしておこうかなと思わせるような、トレンドの終わりを示唆するような兆候がまだ見られていないから。
既にポジションを持っている投資家はまだ、一応、トレンドの継続を見込みつつ、注意深く利食いのタイミングを見計らっていることでしょう。
もちろん、チャネルやレジサポラインなどのテクニカル分析を加えると様子は変わりますよ。ここではあくまで、ダウ理論だけでの考え方ということでやっています。
おっと、先ほどのトレンドが、少し勢いが削られてきたようです。
なぜ、勢いがなくなったのでしょうか。それはもちろん、買う人が少なくなったからです。
買う人が少なくなったということは、売りたい人の割合が増えてきたということに他なりません。
別の言葉でいえば、「需給のバランスが変わった」のです。
敏感な投資家は、ここで利食いをしてしまうかもしれません。特に、「先行期」や「追随期」の早いうちにポジションを持っていれば、この時点で十分に利益が乗っているはずです。大きな資金を投入しているのですから、リスクをとってさらに上がるのを待つより、下げてしまう前に利確する方が賢明でしょう。
この期に及んでまだ上昇の勢いに期待して買いを入れる初心者トレーダーが、いわゆる高値掴みをしてしまう人たちになります。
ここで上昇が煮え切らなくなり、高値更新もできなくなってくれば、もう「利食い期」が始まっているということであり、もしかするとすでに次のトレンドの「先行期」が始まっているかもしれません。
そうなれば、「明確なトレンド転換のシグナル」を待ってから、次の手を打っていくのが得策ではないでしょうか。
例2:押し目/戻り目
上昇トレンドの途中で一時的に値を下げることを、チャールズ・ダウは「ノイズ」と呼んでいました。現代の投資家は、「押し」と呼びます。逆に下降トレンドの途中の一時的上昇を「戻り」といいます。同じく、それら一時的な逆行によってつけられた安値が押し目であり、逆が戻り目です。
この画像では、上昇トレンドに押し目をつけようと値が下がってきているところです。
現状は小さなトレンドで下降トレンドを築いているわけですが、この下降の動きはどこまで続くと思いますか。
わかりませんよね。私だってわかりません(笑)
わかりませんが、候補としては「この辺でサポートされる(反発する)かもしれないな」というラインがあります。
それは、左に見えている大きな波の上昇トレンドの波形で築いた高値と安値のラインです。
ここのラインに到達する前ぐらいに、買いを入れるであろう勢力が2つ想像できます。
ひとつめの勢力は、売りポジションの利確をする投資家たち。
上の画像は4時間足です。この4時間足チャートで形成している下降中の小さな波は、これより小さな時間足(例えば30分足)でトレードしている投資家にとっては大きな下降トレンドになっていることでしょう。売りでトレードをするチャンスです。
では、その売りポジション、利確するのはいつでしょうか。
ひとつの目安は、先述のサポートラインですよね。
多くの投資家、いや少なくとも一部の投資家は、すぐ下のサポートラインに到達するちょっと前ぐらいに利確決済の指値を入れておくものと考えていいでしょう。だって、そのサポートラインを超えてまだまだ下がるのかどうか、確証は持てませんから。なんといっても、大きな波はまだ上昇トレンドですから。
売りポジションの決済はイコール買い取り引き。この利確の決済が重なれば、下降トレンドの勢いが弱くなることでしょう。
さて、上記のサポートラインで買いを入れそうな勢力の2つめが、ナンピンを得意とする投資家たちです。
ナンピンというのはつまり、「保有している買いポジションが含み損のとき、さらに買い増しをする」ということです。後から買ったポジションが含み益を出した場合、先のポジションの含み損を相殺してくれて損失を減らすか、うまくすればプラスマイナスゼロ以上で終わらせることができます。
もちろん、読みが外れてさらに相場が下落すれば損失が激しく拡大してしまうことになるので、ナンピンするかどうかは賛否両論があります。
うまくナンピンを駆使して利益を積み上げていくトレーダーも当然ながら、存在します。
そんなナンピン派が買い増しの機会を窺っているのが、上記のようなサポートラインだということです。
もちろん、「ラインに到達したぜ〜」という理由だけでナンピンするような甘い考えの投資家は少ないかもしれません。しかしどうでしょうか、ちょうど狙っていたサポートラインで相場の下落の勢いが弱くなっているのを観測したとしたら。
先ほどのひとつ目の勢力=売りポジションの利確が相場の下落の勢いを殺してきたら、ナンピン組がここぞと狙ってくる可能性がいよいよ高くなります。
さらにもうひとつ。ちょっとだけ言及した需給のバランスについて。
この章の始めに断った通り、チャートを動かすのは大口の投資機関などです。相場の百戦錬磨です。
当然、上位足から全て環境認識は完璧です。
だとすれば、上位足(ここでは4時間足)のサポートラインに近づいてきたときに、売りを入れるような投資家は少ないと想像できます。
売りが少なくて、買いが増えれば、これはまた相場が上昇していく、あるいは少なくとも一度反発上昇する地合いができてきたともいえますね。
値動き次第ではもしかすると、上位足の上昇トレンドに乗ろうとしている投資家が、ここを短期トレンドの転換中と捉えて先行して買いを入れ出すということも考えられます。
シナリオをたててトレードのデータを溜める
さて、そういうわけで、押し目を作る=反発上昇していくきっかけになるパターンのひとつを考えてみましたが、もちろん、これが絶対ということはありません。その他の相場環境や、指標や、都合や、形成したチャートパターンや、様々な要因で上がったり下がったり、ラインを突き抜けたり突き抜けなかったりします。
ラインを抜けたら抜けたで、損切りや新規のエントリーでまた相場を焚き付ける燃料が変わるでしょう。
極端なことをいうと、チャートに影響力のある巨額投資家Aさんが今夜はデートでチャートが見られない、というようなことがきっかけでラインを抜けるか抜けないかの分かれ目だったりする・・・かもしれませんよ。
え?そんなことをいったら身もふたもなくない?
いやいや確かにそうですが、実はそうでもない。大事なのは、シナリオを建てることです。上で私が出した例でなくてもいい。こうなったらこうする、というシナリオを用意しておくことが、後々のためになります。
そしてそのシナリオは、ひとつでなくてもいい。
始めのチャートに立ち返ってみましょう。
この画像に見える大きなトレンドでは、上昇トレンドの継続中です。
そして、小さな波だけを見れば、下降トレンドの真っ最中。
いまのあなたは思いますね。そこのサポートラインで、反転して大きな波のトレンドに戻っていく可能性があるな、と。それならば、このサポートラインあたりで高値安値が切り上がり出したら買いを入れるというシナリオを用意しておくことができます。
それなら、狙っているサポートラインあたりに来てから、値動きに注目すればいいということになりますね。それまでは静観してマンガでも読んでいればいい。
そして、シナリオ通りにトレンド転換のサインが出れば買いエントリーをすればいいし、シナリオ通りにいかずラインを下抜けてしまったり、半端なところで反転してしまったら、トレードはなしです。
いつも同じパターン、同じ考え方でシナリオを建てて試していくことで、そのパターンの場合の勝率が導けるようになります。
そのパターンでの勝率をあげていくために、どのようなことをすれば良いか研究する。このパターンで勝率が6割〜7割も出せるようになれば、それがあなたの勝ちパターン。
これこそが、FXで勝てるようになるためのプロセスです。
まとめ
・高値と安値の切り上げ・切り下げが連続すれば、トレンドは継続していると判断される。トレンドレスの状態になっても、直近のトレンドが崩れていない限り継続と判断する。
・ 小さな波は大きな波のトレンドの影響下にある可能性が高い
・ 相場の波は需要と供給のバランスを反映している
・ ダウ理論でトレードするために有利なチャートとは、誰が見ても同じ高値安値を判断するような分かりやすいチャートのことである
・ シナリオを建て、パターン化して、そこから勝率を上げる研究をする。それがあなたの勝ちパターンになる