移動平均線を一本だけ表示することは、ものすごくざっくりいうと「値段の乱高下は気にしないことにして、傾向だけ見てみましょう」ということです。
前稿では、この一本の移動平均線で、次の3つが分析できるようになるという話をいたしました。
A)相場が上昇の傾向にあるのか、下降の傾向にあるのか、その傾き具合
B)相場における現在の価格の位置感覚
C)サポートやレジスタンスの目安
一本だけの移動平均線ではこの通り、相場分析に役に立ちます。
では、2本以上の移動平均線を表示した場合、どのようなことがわかるようになるのでしょうか。
実はこれにはいくつもの組み合わせがあり、相場分析というより、それぞれの投資家の作戦の要素が大きいようです。
言い換えれば、エントリーポイントを探るフィルターがけをしているような。
私も初めは、いろいろなトレーダーがあれこれの移動平均線を組み合わせているのを見て混乱したものです。あっちを立てればこっちが立たず、いったい誰の移動平均線を取り入れればいいの〜??・・・と。
そんな初心者の混乱を早めに打ち破るべく、本稿では複数移動平均線を使う作戦のパターンをいくつかご紹介していきます。
作戦さえ分かってしまえば、あとはどのように期間設定を組み合わせるのかはあなた次第。
ご自分のトレードスタイルに合いそうなものを選んで、研究してみてください。
マルチタイム型:上位時間足のトレンドを一括監視
「上位足の波に乗れば本当に勝率が上がるのかを検証してみた」で検証した通り、上位足のトレンドと同じ方向にトレードをすることで、勝率を上げることを期待できます。
移動平均線を使って、同じようなことを簡単に、しかも視覚的にわかりやすくチャートに反映させることができます。
例えば、私のトレードが1時間足をメインの監視足にしているとしましょう。
上位足といえば4時間足と日足、長くて週足まで加えてもいいかもしれません。
ここから、少し算数になります。
1時間足チャートを開いているとき、4時間だとローソク足4本。1日なら24本。一週間が5日間の取引日だとして120本。
では、1時間足で20EMAを基準にしたとき、同じチャートに次の期間のEMAを加えてみます。
2本目 :20 x 4 = 80EMA (4時間足の20EMAに比定)
3本目 :20 x 24 = 480EMA (日足の20EMAに比定)
4本目 :20 x 120 = 2400EMA (週足の20EMAに比定)
これで、1枚の1時間足チャートを見るだけで、週足までの20EMAの傾きを比較できるようになりました。
上位の時間足の傾向が視覚化されたことで、順張りを徹底するならばエントリーすべきでないタイミングなど、フィルターがかけやすくなりましたね。
パーフェクトオーダーともなれば、1時間足から週足までが同じ向きに優位性が出ているということですから、大きなチャンスともいえます。
ただし、週足ともなればローソク足一本逆行するだけでも大変な値幅になります。軽く押し戻りをつけようものなら、下位足にとっては大きな逆行。
上の画像の中にP1、P2、P3、P4と打ってみました。
P1は1時間足から日足までがパーフェクトオーダー成立した点です。大きく下落が伸びています。
P2はさらに週足までがパーフェクトオーダーに加わりました。・・・が、下落の勢いは失われ、間もなく反転上昇になりました。
P3は今度は上昇で、日足までのパーフェクトオーダー。上昇トレンドは一旦失っているものの、移動平均線の束に撥ね返されるように再度いくらかの上昇を見せました。
ここまでは出来上がったチャートを後から見て分析したものですね。次はどうでしょうか。
P4は、再びの週足までの下降のパーフェクトオーダー。しかし、パーフェクトオーダーが成立した時点ではすでに価格はだいぶ下げ、白丸で囲んだローソク足になります。
ここから、さらに下げるかどうかは分析をしなければなりません。上位足の実際の様子など確認してみれば、ヒントが得られるかもしれませんよ。
というわけで、移動平均線の傾きが揃ったというだけではエントリーのトリガーにはならず、エントリーポイントを探る環境にある、という認識が妥当です。
パーフェクトオーダー大好き型:短期から中期までの線で勢いを探る
上記のマルチタイム型のように上位足の傾向にまでは気を向けず、超短期(6MA〜9MA)もしくは短期(20MA〜26MA)から、中期程度(50MA〜120MA)までの移動平均線を何本か組み合わせて、とにかくパーフェクトオーダーで利益を狙おうという作戦です。
例えば、特にこだわりなく設定すれば次のような感じでしょうか。
9EMA + 25EMA + 75EMA
20SMA + 50SMA + 100SMA
期間が短いほど、パーフェクトオーダーが現れる機会も多くなります。
また同時に、パーフェクトオーダーが終わるまでの期間も短くなりますし、値動きに影響されやすくなります。
これはもう個人の好みとしかいえませんが、通貨ペアごとのボラティリティの特徴から最適な組み合わせを探るのも一興かもしれません。・・・って、手法追求の果てしない迷路にはまらないように気をつけてくださいね。
注意点としては上記のマルチタイム型と同様です。移動平均線のデータは終値データを集計して相場の動きを後追いするものなので、パーフェクトオーダーが発生した瞬間には相場がすでに転換しかけている可能性があります。そうなると、エントリーしても思ったほど伸びず、あえなく逆行ということもよくあります。
マルチタイム型と複合して、上位足の傾向もフィルターに取り入れたりするとよさそうですね。エントリーチャンスは少なくなりますが、負けるかもしれないトレードを減らすことは、勝てるかもしれないトレードの割合が大きくなるということですから、勝率アップに繋がります。
両手に花型:SMAとEMAを同時に見れば世界が広がり限定化される
SMAを利用している投資家と、EMAを利用している投資家の違いについては、前稿で述べました。
いや、述べましたが、結局よくわかりませんでした。
アマ投資家にはSMA派が多くてプロはEMA派が多いとか、
日本国内はSMAが一般的で海外はEMAが主流だとか、
とにかく統計的なデータは特にないので実態がわかりません。
でもまあ、いずれだとしても、SMAとEMAを両方表示させておくことで両者の見ている世界がともに見え、どちらも同じ方向を向いているときだけにトレードを限定化することができるようになります。
もう少し突っ込んでいうと、EMAは直近価格重視なので値動きに対して反応が早く、そのためダマしのような値動きにも比較的ですが翻弄されやすくなります。そこでSMAを同時に観察することで、短期的なダマしに若干のフィルターをかけることができるようになります。
もっとも、SMAとEMAを両方表示させる投資家は少数派かと思いますので、それぞれの方の思惑や手法があろうかと存じます。
奥の深い、独特の技法という感じがしますね。
わかりやすさ重視型:GMMAで相場の流れが水のように見える
ここまでは移動平均線を何本か〜程度のお話でしたが、世の中にはEMAを12本も組み合わせるというかなり積極的な使い方があります。
12本も線があったらごちゃごちゃしてわかりにくいだろ〜、と思われるかもしれませんが、これがなかなかどうして良い感じなのです。
特に、相場の上げ下げに慣れていない初心者にはオススメです。川の水が流れるように、相場の動きが視覚化できます。
GMMA(Guppy Multiple Moving Average)グッピーさんの複合型移動平均線、とでもいいましょうか。グッピーというのは、オーストラリアの投資家です。ご自身の手法として開発されたのかもしれません。
「ジー・エム・エム・エー」 と長い名前で呼ぶのがイヤなのか、文字面の雰囲気から「ガンマ」と呼んでいる投資家もいます。これは余計な知識ではなく、YouTubeを見ていると前置きなく「ガンマがね」みたいな説明をし出す人もいるので、頭の片隅にでも「移動平均線でガンマといえばGMMAのこと」と入力しておいて頂ければいいでしょう。
さて、それでは気になる12本のEMAとは、次の12コの期間になります。
短期線グループ:3、5、8、10、12、15
長期線グループ:30、35、40、45、50、60
一般的には短気グループを青、長期グループを赤で色分けするようですね。
GMMAの使い方1:値動きの勢いがわかりやすい
これは複数の移動平均線を表示する場合どれでも共通するのですが、期間の異なる線どうしの幅が広がれば広がるほど、値動きの勢いが強いということがわかります。
GMMAでは見ての通り、EMAの束がぶわっと広がったり、しゅっと縮まったりと、ビジュアル的に分かりやすくなっています。
時には短期線の束が長期線の束に食い込んでまたトレンド方向に戻ってきたりと、初心者にとっては「おお、こんな動きもするんだな〜」と、大局的な動きが見やすくなっています。
GMMAの使い方2:EMAの中に食い込んできたローソク足は、だいたい押し返される
移動平均線の特徴のひとつは、「サポートやレジスタンスの目安」でしたね。ということは、こんなにEMAが並んでいるGMMAはそれだけで「レジサポの束」といっても過言ではありません。
実際のチャートを見ても、トレンドの出ているところではだいたい短期線の束のどこかで反発を繰り返し、時々短期線を突破しても、次に長期線で撥ね返されるという有様です。
さらに長期線を突破されたら、トレンド転換するかどうか、じっくり見定めればいいでしょう。
あと、蛇足ながら、私好みに若干アレンジしたGMMAがこちら。
ポイントは、
・ EMAの期間の幅を広めに設定した。(5,10,15,20,25,30 + 50,60,70,80.90,105)
・ 色を暗くし、目立たないようにした。
・ 普段使っている20EMAと80EMAは色を変えた
期間の幅を変えた理由は、あまり小さな期間のEMAを集めても意味はないかなと思ったことと、上記のマルチタイム型の20EMAと80EMAを表示させておきたかったからです。これで、1時間足チャートながら4時間足の傾向も同時に掴めました。ついでにいうと、480EMAと1200EMAも加えてしまいたいぐらいです。
ただしこのように期間の設定を変えては、他のウェブサイトで紹介されているGMMAを使った手法とは細部が合わなくなってくる可能性もありますので、アレンジについてはご自分の目的と好みでやってみてください。
手法改善&サインツールプレゼント
前稿の最後にご紹介した、移動平均線への反発を利用するトレード手法。
まず、手法のおさらいです。
<エントリー条件>
※買いのエントリーをする場合の説明表記。以下同じ。
・ ダウ理論で上昇トレンドを確認
・ 移動平均線がしっかりと右肩上がりに傾いていること
・ 直近の移動平均線からの反発が高値更新を十分に達成していること
(つまり、このエントリーと同じことをしたら勝てていただろうという値動きになっていること)
・ 先行していたローソク足が移動平均線に戻ってきて、タッチもしくは少し行き過ぎてから反発上昇しようとしていること
<エントリートリガー>
直近高値のブレイク
<指値と逆指値>
損切りの逆指値は、押し安値。
利確の指値は、損切り幅と同じ値幅もしくは少し上まで。
⇒リスクリワードは1:1以上に設定
今回は、上記の手法に複数の移動平均線を加えることで、改善ができるかどうかを考えてみましょう。
1)上位足を加えてみる
下の図では、80EMAと480EMA、1200EMAを加えてみました。
これで上位足の傾向がわかるようになりましたので、同じ目線であることをエントリーの条件に加えてみます。
20EMAと80EMAがゴールデンクロス(2本でパーフェクトオーダー)していることを条件にすれば、①、②、③、④ とエントリーポイントがあります。
さらに480EMAも加えた3本の線でのパーフェクトオーダーを条件にするのであれば、この図では④だけがエントリーポイントとなりました。ここはさすがに、トレンドが伸びきった感がありますね。実際、次の波は勢いを失っています。
2)GMMAを加えてみる
GMMAの何が良いって、移動平均線の束の中で価格が撥ね返されたとき、どの線のあたりで撥ね返ったのかがわかりやすいことでしょう。
25EMAで撥ね返された経歴があれば、また25EMA付近での反発を期待できます。
短期線の束を突破して長期線で反発したら、次に同じあたりまで押し込んできたらまたトレードチャンスがやってきます。
お気づきでしょうか。仮に上の1時間足チャートで80EMAに撥ね返ったら、それは4時間足での20EMAにサポートされていることになるのです。
だから、大きめの波で上記のエントリー条件を満たしているのなら、25EMAの反発を狙っている同じチャートで80EMAの反発も狙うことが可能になります。
なんだか、お得な感じですね!
ここでは手法の例を考えているだけですので、これが使えるかどうかの検証は各自でやってみてくださいね。
サインツール
というわけで、移動平均線の記事を2本、ここまで読んでくださったあなたのために、サインツールを用意しました。
サインツール >> EMA Touch Sign サイン発生条件(1):2本もしくは3本のEMAがパーフェクトオーダー サイン発生条件(2):長期の方のEMAの傾きが順張り方向に傾きがついていること サイン発生条件(3):短期の方のEMAにローソク足が実体で戻った後、また実体で順張り方向へ出ていったとき
このサインツールはエントリーポイントを示すのではなく、移動平均線まで押し/戻りがありましたよ、ということをサインで出してくれるものです。
実際にエントリー条件が揃っているポイントかどうかは、その都度ご判断ください。
常にチャートを監視できる方ならそれでよし、できない方にはサインツールが大きな味方です。
仕事の合間でも、マンガを読みながらでも、サインが出たときだけチャートに向き合えばいいのであれば、時間の節約になります。
特にここでご紹介した手法はシンプルで、エントリーができそうだと考えればトリガーとなる高安値に予約注文を入れておけばいいのです。
少し時間が経って確認してみたときに、押し戻りが深くなっているようであれば利確/損切りの値幅を調節すればいいし、あるいはトレードに不利(相場の勢いが弱くなった)になっていれば予約を取り消せばいい。
あとは、検証を繰り返して勝率を上げることに努めるだけです。
まとめ
・ マルチタイム型のMA組み合わせで、上位足の傾向を同時に視覚化できる
・ パーフェクトオーダーだけを相場から切り取ってトレードすることで、優位性のあるチャートを選別できる
・ SMAとEMAを同時に表示することで見える世界が広がり、同時にエントリーポイントをより限定化できる
・ GMMAで相場の流れを視覚化し、相場の流れ方がイメージしやすくなる